
代表取締役メッセージ
私たちが変わり続ける理由
CUC グループの10 年間とこれからの未来
濱口慶太
激変する世界のなかで自ら変わり、社会を変える
2023 年から2024 年はポストコロナという時代の幕開けでありながら、ウクライナ危機などの国家間対立の長期化、気候変動による洪水、暴風雨といった自然災害など、さまざまな問題が私たちに厳しい現実を突きつけた年でした。さらに世界的な物価高騰は多くの国で貧困や社会不安を生み、人々の生活に影を落としています。
日本では1947~1949 年生まれのいわゆる団塊の世代が後期高齢者となる2025 年が目前に迫り、本格的な超高齢社会に突入します。社会保障費の増大や医療・介護の労働者不足はもはや避けて通れない現実です。私はこれだけの危機的状況の中にありながら、国民皆保険という制度に守られ、変化の速度が緩やかな日本の医療介護業界の現状を見ていると、強い焦りを覚えます。現状維持はもはや衰退であり大きなリスクであると思います。
この業界においても、時代とニーズに合わせてサービスや提供体制を柔軟に変えることはもちろん、自社の存在意義や目的から見直す必要があります。このような時代だからこそ、私たちは自らを問い直し、率先して変化することで、社会の変化のきっかけを生み出していきたいと考えてきました。
CUC は2024年8月8日、創業10周年を迎えました。「子どもたちが生きる未来に持続可能な医療を」と願い、創業した当時の想いは今も変わりません。10年前、私ひとりの小さな種火だった社会変革への想いは、多くの仲間たちとの出会いを通じ「医療という希望を創る。」という使命の炎になり、世界に広がっています。10年という節目に、改めてCUC グループの変遷を振り返りながら、私たちの目指す未来についてお伝えしたいと思います。

CUC グループの10 年間。今を決めた二つの転機
創業から2019年までの5年間で、医療機関支援の領域を在宅医療から病院・透析医療へ拡大してきました。2017年以降、自社サービスとしてホスピス型住宅や居宅訪問看護事業を開始することで構築したのが、急性期医療から看取りまでを支える現在の「医療介護の垂直統合プラットフォーム」の原型です。2020年からのコロナ禍の激動を経て、2023年6月に東京証券取引所グロース市場に上場し、2024年1月には米国での事業展開を開始しました。
さらに2024年4月には、医療を目的に訪日する外国人のみなさまに向けた医療ツーリズム事業等の新規事業も本格始動し、事業を拡大させています(下図:CUCグループの事業構造図参照)。
このように書き出すと順調な成長に見えるかもしれません。しかし実際は順調とは言い難い「挑戦と失敗の連続」でした。その中でも今につながる二つの大きな転機があります。
一つ目は「医療という希望を創る。」という私たちの使命の策定です。
創業からの約3年間は私自身がプレイヤーとして、顧客接点から意思決定まですべてに関わっていました。しかし社員数が100名に迫り、事業が多角化・多拠点化する中で、組織課題が多様化し、権限移譲を急ぎ進める必要性に直面しました。権限移譲を行うためには軸となる理念が必要だと思い至り、当時の経営メンバーでグループがどうあるべきかを問い直し、私たちらしい言葉を紡ぎ出しました。そこで生まれたMission(わたしたちの使命)が「医療という希望を創る。」です。
この言葉には、国や地域、領域を制限せず、どこであっても医療という希望を求める人のために活動する会社になろう、という強い意思を込めました。これが現在も続くCUCの理念経営の原点です。私はこの頃から「経営者ではなくMissionを上司に」と伝え続けています。
二つ目の転機は、「コロナ禍の経営危機」です。2020年、新型コロナウイルス感染症の急拡大により国内外で医療体制がひっ迫していた頃、グループも大きな打撃を受けました。経営陣の脳裏に「倒産」の文字が浮かぶほどのマイナス業績予測を受け、社内には厳しい緊張感が漂っていました。この危機を打開したのは従業員の決死の努力でした。
灼熱の真夏に防護服を着て訪問活動を行う在宅医療の現場。PCR検査センターの立ち上げ支援や、自治体や関係医療機関と連携した健康観察体制の構築、大規模ワクチン接種会場運営支援など、続々立ち上がった新規サービス。何よりも、一人ひとりが逃げることなく患者様や社会のために尽力し続けたことで、未知の感染症との戦いにグループ全体で貢献し、結果的に、企業としても大きく成長することができました。
しかし一方で、経営危機を救ってくれた従業員の疲弊した表情を目の当たりにし「本当に医療という希望を創ることができているのだろうか」と改めて 深く考えるきっかけになった出来事でした。
CUC グループの事業構造図
医療機関事業、ホスピス事業、居宅訪問看護事業を基幹事業とし、
2014年の創業から10年をかけて事業の対応領域と展開エリアの双方を拡大し続けてきたCUC グループ。
「医療という希望を創る。」というミッション実現に向けて、幅広い分野の医療サービスを国内•海外で提供しています。

理念の実践と、事業を超えた連携が前進した2023年度
最大の経営危機となったコロナ禍を含めて、厳しい局面を救ってくれたのはいつも従業員でした。
医療という希望を実現するのは彼らであり、だからこそその働きがいの最大化こそが経営の役割だと感じています。
そのための一歩として、2023年8月にはCUC Partners Promise(以下、Promise)を策定しました。CUCパートナーズの経営陣から従業員への約束ごとを定めたものです。「一人ひとりが働きがいを感じ、夢や理想に挑戦できる環境を実現する。」つまり一方的に理念の体現を求めるのではなく、希望の創出を支える環境づくりに経営陣がコミットする意志を明確に示しました。そして実際にこの一年間はPromiseを土台にした理念の浸透、育成・キャリア支援の強化、社内コミュニケーションの活性化を進めてきました。
たとえば2023年4月より開始した、従業員同士で理念を語り合う少人数トークセッション「フィロトク」や、月次で経営メッセージを伝えるイベント「CUC TIMES」など、従業員同士での理念の実感機会を増やしました。また、従業員が将来のキャリアの希望などを会社に申告できる「自己申告制度」や、社外で活躍する著名人の学びに触れられる講演会「未知との遭遇」も、育成・キャリア支援の機会としてスタートしています。
こうした取り組みの結果、従業員を対象に毎月測定している理念実践度は5点満点中3.97(2022年度)から4.17(2023年度)へと平均値が改善しました。
一人ひとりの理念への共感と実装が進んでいると考えています。
また、2023年度は「事業間の連携」にも注力してきました。これまでCUCグループでは事業ごとに専門性を高め、拡大のスピードを加速するために、事業単位の拡大戦略を推し進めてきました。順調に各事業の成長が進む一方で、事業間の情報共有や連携の不足が大きな課題となり、組織を超えたシナジーが生まれにくい状況でした。
そうした背景から2023年10月、グループ横断で組成したのが「希望のまちプロジェクト」です。事業の連携推進を目的に、各事業を超えて事業の中核メンバーが集う「希望のまち地域サミット」を全国8エリアで半年間かけて開催しました。札幌から博多までのべ500名を超えるCUCグループの社員と支援先医療機関の理事長・院長・看護部長等が集まりました。
サミットでは、私を含めたCUC経営陣と、最前線で活躍するリーダーが同じテーブルにつき、地域を取り巻く医療課題の認識を揃えながらエリアごとの目指すビジョンを策定しました。顔が見える関係性が生まれたことで信頼関係が高まり、それ以降、事業間の人材交流や患者様の体験価値向上につながる新たなサービスのトライアルなど、各地でさまざまな連携の取り組みが開始されています。私自身もサミットで多くの方と意見を交わしたことで、地域ごとの課題やニーズ、そこに向かう熱量を感じられたことが大きな収穫となりました。

CUC Partners Promise(働くみなさまとの約束)

「希望のまちプロジェクト」2023 年11月に開催された北陸サミット
2040年の未来に向けて目指す
「患者視点の医療の普及」と「働きがいと誇りのある職場の実現」
改めて創業から今までを振り返ると、私たちがこれからも変えるべきこと、そして変えてはいけないことが明確になった10年間でした。
2040年代には日本の高齢者人口はピークに達し、労働力不足の深刻化、社会保障制度の崩壊などさまざまな問題が噴出すると予測されています。
医療の負を解消するために私たち自身の行動は柔軟に変えていく一方で、使命は変えてはいけない。
変わらない使命のもとで私たちが目指すのは「患者視点の医療の普及」と「働きがいと誇りのある職場の実現」です。
「患者視点の医療の普及」においては、医療のあり方を問い直す必要があります。世界的に高齢化が進展し、医療の役割は「治す」ことが中心の従来型医療から「治し支える」生活支援型の医療へと転換しています。このような変化の中で重要となるのが、医療と介護の領域を超えた連携。従来の疾患中心の縦割りの医療ではなく、患者様の生活に焦点をあて、地域で包括的に患者様のあらゆる問題を解決していくチーム医療が不可欠です。
だからこそ私たちは事業や地域を超えた地域連携をいっそう推進します。医療・看護・介護の幅広い機能とエリアを網羅するCUCグループのスケールメリットを活かし、患者様に本当に必要な医療・介護を届けたいと考えています。同時に、既存事業の隣接領域への展開も加速します。ライフプラン、保険、相続、葬儀など、医療・介護の枠を超えた課題に対して、今の日本の制度や枠組みはサポートが追いついていません。CUCパートナーズには、全国の医療現場で積み上げた数万人単位の患者様の情報と多くの医療従事者の経験が蓄積されています。この貴重な資源を活かし、既存の枠組みで支えきれていなかった課題にアプローチすることで、患者様の「人生すべて」に向き合っていきます。
「働きがいと誇りのある職場の実現」において鍵となるのが「現場力」です。どうしたらもっとスムーズに患者様を受け入れられるか、どうしたらもっと従業 員が動きやすくなるか。こうした現場で生まれる日々の小さな課題発見と改善を積み重ねる力を私たちは「現場力」と呼んでいます。現場力を高めることで組織全体の生産性が向上し、より本質的なサービス品質の向上に向き合う時間を増やすことができます。その結果、患者様の満足度が高まり、従業員の働きがいも同時に高まっていくと考えています。
CUCグループは2022年4月に「現場力向上プロジェクト」を立ち上げ、あらゆる現場の業務をマニュアルとして可視化することで「業務と技術の標準化」に取り組んできました。2024年度からは次のステップとして、より現場の一人ひとりが自ら考えて創意工夫できる組織カルチャーをつくることを目指しています。本部管理型から現場主導型へのマネジメントスタイルの変更、課題発見力を高める教育研修の導入やアイデアを組織全体に波及させるナレッジ共有のシステムづくりなど、さまざまな取り組みを実践することで、現場力の向上を全力で推進していきます。
「患者視点の医療の普及」と「働きがいと誇りのある職場の実現」を追求する組織カルチャーがCUCグループにとって模倣困難な最大の競争優位になり、その結果、選ばれ続ける職場になると私は信じています。
CUCグループ全員でそれぞれの地域で最も必要とされる医療グループに成長し、これからの未来をともに創り上げていきたい。Change Until Change、変わるまで、変える。の名のもとで、自らが変化し、医療という希望の実現を目指します。
2024年8月
代表取締役 CEO
濱口 慶太
